No Title Phase:12

Phase:twelve

最初のうちはまだ良い方だったように思う。雑用を手伝わされていた最初の方は。
“人形”らしく言われることをただ聞いて従っていれば、そこまでディクソンたちには酷い事はされなかった。
“罰”の執行は無かったと言うべきだっただろうか。腕の手錠だって僅かだが緩めてもらえた。
ここで言う酷い事…”罰”というのは、殴る蹴るなどの暴力だ。”罰”という名の暴力の所為で何度も吐いたこともある。
しかし、比較的ましな生活は突然終焉を迎える。

俺を待っていたのは、暗闇の中での24時間監禁生活だった。

繰り返される終わりの見えない日々に、何度も絶望しかけた。
しかしそんな俺を絶望から何度も救いだしてくれたのは、家族という存在と左耳のピアス、胸元のペンダントだった。
もう家族は居なくなってしまったけれど、ピアスとペンダントはまだここにある。
それが救いだった。

ジェレミーの命令もとい実験は何とか耐えられる。
それでも記憶に一生残りそうな嫌なものに変わりはなかったが。
何も感じないように念じてさえいれば、肉体的なダメージはさほどでもなかったような気がした。…あれに比べれば。
あれ……マリーベルの言う事もとい”遊び”という名の命令はあまりにも嫌なものばかりだった。精神的なダメージが来る。
いつも、始めの言葉は『”遊び”ましょ?』
彼女は昼こそは母親のように振舞うが、夜になるとがらりと豹変する。
夜の方の姿がきっと彼女の本性だったのだろう。
毎日の如く夜遅くに俺の監禁されている部屋へとやってきて、俺の体を散々に犯し、弄んでは”快楽”とか”恐怖”とかという名の感情の枷に縛りつけて従順な人形にしようとした。いつも、支配する事への喜びと征服欲にまみれた瞳をぎらつかせて。
彼女には、どうやらそういう趣味があったらしい。俺は抵抗しないように両腕を痣ができるくらい強く拘束されて、彼女によって体にのしかかられる。勿論、抵抗しようとすれば殴られるし蹴られもする。
抵抗しようがしまいが結局は最後まで強引に犯される。

やっぱり痛い思いはしたくなくて、抵抗しない方が…流される方がましだと思った。
最初のうちは、まだジェレミーの方がましだと思ったくらいだ。
後からはそうも思えなくなってしまったが。

暗闇の中に一日中閉じ込められる。
その上に昼はジェレミーに体を弄られ、夜はジェレミーとマリーベルに体を弄ばれる。
そんな日々が続いて、肉体的にも精神的にも限界が来て、もう死にたくなった。
これが”絶望した”ということなのかもしれない。
気が付けば、うわ事のように『殺せ』と呟いていた。
けれど彼らはそんなに優しくもなくて、俺を生かし続けた。
拘束をきつくして。
□□
やがて、変調をきたした。ここまでもった方が不思議だったかもしれない。
そして、イヴァンは逃げるようにして覚めることのない眠りについた。
エアハルトは代役としてルイを出す事を考え、彼に苦痛を受けてもらうようにした。
あいつらもそれを察してか、拘束はほとんど無くなったものの、世界は暑さも寒さも感じない闇に閉ざされ、音は心臓の拍動の音と幻聴のような声しか聞こえない。この心臓の音と幻聴を恨めしく思った。自分だってこんな事から逃げ出したいのに。
心臓の音は”クリストフ=N=L=クロイツァー”が生きていることを克明に知らしめていて、幻聴はルイに”現実から逃げるな……”と何度も言い聞かせた。
□□
監禁され始めてから1年が経ったくらいだろうか。
ジェレミーとマリーベルが珍しく揃ってやってきた。
もう、そちらの方に目を向ける気力も残されていなくて、ルイは項垂れたままでいた。
『起きなさい』
どうやらルイが寝ていると思っているらしい。
彼らはもう一回、同じ言葉を繰り返した。
『起きなさいと言っているんだ!!』
拳で殴られ、足で蹴られた。
ルイは振るわれた力に逆らえずに体が呆気なく床に倒れ込む。
せきこむが、もう何も出ない。
そのときでさえ、必死に生きようとする心臓の拍動音が煩かった。そして、大きく1回だけ心臓がドクンと鳴った。
あとは何時もの音量に戻る。

何故か、”体が熱い”と思った。
そう思った直後に視界がブラックアウト。
死んだな、と。
これで楽になれる、と。

そう思っていたんだ。
□□
エアハルトはゆらりと立ちあがった。
このままではルイが死んでしまうと判断して、出てきたのだ。
伸びた髪の毛がはらりとこぼれて顔にかかる。
ただ、その髪の色が違った。闇に溶け込むような漆黒だったはずだ。
それなのに。
今しがた立ちあがったエアハルトの髪の色は黒でありながら闇に溶け込むことのない銀色が入っていた。エアハルト本人の髪は金色にも拘らず。
『いつの間に銀髪に染めたんだ……マリーベル、君か?』
『…いいえ、わたしじゃないわ。昨日の夜までは黒髪だったもの!』
『何故それを知っている?』
『昨日の夜にわたし、あの子と”遊んだ”のよ』
『なるほど。いつもそうしていたのか?』
『ええ、そうよ』
『そうか…では、私たちが見ていない間に染めたということか…!!人形の風情で、生意気な!!!』
ジェレミーは勝手に結論付けて、エアハルトに殴りかかろうとした。
彼に髪を染めるなどという余力がないことは知っていただろうに。
ただ殴りたかっただけか。

だが、それは未遂に終わった。
彼の拳はエアハルトを掠め、彼はジェレミーの腕を両手で掴んでくるりと円を描くように投げ飛ばした。彼が何故そこまでの力を出せたのかは自分でもわからなかったという事だ。ダンッと体を床に叩き付けられる音が部屋に余韻を伴って響いた。
ぐっ、という息が詰まったような短い音とゴトン、という重たい音、それから、きゃあ、という短い悲鳴が一瞬置いてやってくる。
『そんな力が残っていたの!?プライドも何もかもすべて奪い尽くしたと思っていたのにっ!!』
『くそっ!化け物は化け物か!!!』
『…………いい加減にしろ』
ジェレミーのものではない、低い声。それには静かな怒りが込められていた。
ジェレミーとマリーベルがはっとしてその声の主を振り返ると、その視線の先には黒に銀という特異な色の髪のエアハルトが腕を組んで斜に構えて立っていた。口元は不敵な笑みの形でこそあったが、目は全く笑っていなかった。
彼らは、エアハルトを完全に怒らせてしまったのだ。

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