No Title Phase:25

Phase:twenty-five

先日の上層部の殺害により軍内部は多少なりとも混乱し、”waltz in the DARK”は結局、中止となった。さらに混乱を招くという理由だ。クリストフ自身、中止が嬉しかったのか、はたまた残念なのかは分からないままだ。
お陰で(?)、普段通りの活動を行う日々が続いていくのだろう。
その証拠に暗部の制服は回収され(おそらく処分されているだろう)、また特務隊の全員にこっそりと軍籍は再び与えられていた。何故だか、全員の階級が一階級昇進しているのだが。口止めのつもりなのかもしれない。いや、実際そうなのだろう。
そんな訳で、クリストフは中将になっていた。

それから数週間が経って、上層部殺害事件の全容が少しずつ明らかになった。
襲撃者が彼のアカデミー時代の友人、ヒカル=ヤサカ中尉だと判明して、ひどく落ち込んでいたこともあった。そして、そのヒカル=ヤサカ中尉が死亡していたのもクリストフを落ち込ませるのを後押しした。
それでも、すぐに立ち直らなければいけなかった。完全に立ち直ったかと聞かれれば、すぐに肯定はできないが。

そんな事もあるけれど。

能力は優れているのだが性格にやや問題のある隊員たちがちょっと問題を起こしては可愛らしい喧嘩に発展して、それを遠くから副官と一緒に見守るような平和で温かな日々。それを今、この身に余るほどの幸せだと思う。だからこそ、この穏やかな日々を守っていきたいと思う。それだけの力はあるのだと思う。
「………昔とは大違いだな」
絶望して何もかも疑って、自虐的になって内に閉じこもっていたあの頃とは。と心の中で付け加える。

そう言えば、もうすぐ今年も終わるか。
冬に特有の、体にすっとしみ込んでいくような暖かい日差しを背に受け、それに誘われるようにふっと笑みをこぼすと、不意に来客を告げるブザーの音がした。何の考えもなしに「どうぞ」と入ってくるように声をかける。
「すみません、お邪魔でしたか?」
多少遠慮がちな副官が先頭を切って入ってくる。
そんな彼女の後ろからぞろぞろと隊員たちがやってくる。彼らは一様に明るい表情をしている。
「いったい何なんだ?」と首を傾げて考えてみても、特に用事も何もなかったはずだと頭は答えを出した。
「どうかしたのか?」
「閣下、今日は何日だか覚えていらっしゃいますか?」
隊員からの唐突な質問に、ちょっと慌てて軍から支給されている腕時計に目を走らせる。Dec.25 と、文字盤のカレンダーは今日の日付を示している。
「今日?………12月25日だな」
「でしょう?」
何が「でしょう?」なんだ?
質問をした隊員、アビゲイル=イェーガーがくすくすと笑い出す。
それが周りにも伝染して、誰もが笑い出す。いや、待てよ……12月25日……………ああ、そうか。
「クリスマスか。早いな、もう一年が過ぎようとしているのか」
「いえ、それもあるのですが…もう一つあるでしょう?」
ね?と付け加えて悪戯っぽく笑ったのはレナスだった。
何かが引っ掛かる。思い出せない何かが。
果たして、何だったか。妙に真剣になって思い出そうとしていると、ある一つのことに思い当った。
そう言えばそうだった、というような事。
「………そう言えば今日、俺の誕生日だったっけ?」
「ですよね」
正確に言えばオリジナルの誕生日なのだが。
せーの、と隊員たちが顔を合わせて頷いた。
パーン!!

「うわっ!」
突然の、破裂音に似た複数の音と飛び散る色とりどりの紙吹雪。
反射的に腕で顔をかばったのだが、正体がパーティなんかでよく使われるクラッカーだと分かると「やれやれ」といった表情で腕を下ろした。ひらひらと、静かに紙吹雪が頭に舞い落ちた。
「閣下、お誕生日おめでとうございます」
「何で、今日が俺の誕生日だって、分かったんだ?」
「アビゲイルのお陰ですよ」
「…アビゲイル?」
何故か途切れ途切れになった言葉を繋げて、視線だけアビゲイルに移してみる。
「はい!データベースでちゃちゃっと調べました!!」
「……………で、ちゃんと任務は遂行しているよな?」
すると、彼女は元気よく答えた。
その様子を見つつ、「いつもハイテンションで元気だなぁ」などとつい年寄りくさく考えてしまったのに更に苦笑する。
それを表には出さないで浮かべていた笑みを更に深くしてやると、彼女は急に顔を引き攣らせた。
心なしか冷や汗が出ているような気がしないでもない。
「えっと、それは………ですね……」
「私が彼女にお願いしたんですよ。ですから、責めないであげて下さい」
「……まぁ、今回は大目に見ようか」
副隊長、ナイスフォロー。
隊員たちは満場一致でそう思った。一部の隊員は親指をレナスに向けておっ立てていた。
そして、改めてお祝いの言葉を贈る。
「お誕生日おめでとうございます」
じんわりと、まるで今日の太陽の光のように暖かくて穏やか。
そんな形容詞が似合う何かがゆったりと彼の中に沁み込んでいった。何だか顔が赤くなってそうだ。いろんな意味で。

立ち上がって、口を開く前に全体を見回す。
どの顔も絶望を感じさせない良い顔をしている、と思った。
「守りたい」という思いを心の中に抱いて、クリストフは口を開いた。
「えーと、お祝いありがとうございます。まぁ、こうして無事に誕生日を迎えられたんで…来年もこうしてられればいいなと思っています。そして、皆さん…今まで俺についてきてくれてありがとう」
敬語な上に、何だかまとまりのない文章になった気がするが、言い直す気にもなれずに椅子に再び掛ける。
そして後からくる妙な気恥ずかしさに内心頭を抱える。

照れてる、んだと思うんだよな…この状況じゃ。
「閣下、もしかして照れてらっしゃいます?」
「……………多分」
最早隠す気にもなれずに、こっそりと、そっぽを向きつつ傍にいたレナスに白状した。
まさか、こんな年になって照れるとは思ってなかったんだ!
「現在お幾つですか?」
「あ、それあたしが聞こうと思ってたのに!!」
「叫ぶな、頭に響く」
「うん、まぁ…落ち着いた方がいいんじゃないかな?」
「で、お幾つですか?」
「ああ…24だったかな」
こっそりと今日の日付から生まれた時の日付を引いてみると、確かに24。
「にじゅうよん!?」
「そう、24」
それから、また別の騒動が起こったのは言うまでもなかったか。
自分も密かに、双子の姉を祝う。
Happy birthday, Christiane. Merry christmas and birthday on you.
彼女の住まうらしいテトラリスにはクリスマスなんて無いかもしれないけど。
彼女の顔はもう分からないだろうけど。
それでも、もう一人の自分の誕生を祝いたかった。

彼女の途に多くの幸福がありますように。

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